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ロシア演劇に興味がない方のために

ロシアに行って、本場のバレエやボリショイサーカスを観劇しようと考える人は少なくないと思う。一度は見てみたいだろう。しかし舞台、演劇となるとどうだろう? 言葉がわからないという理由で敬遠してしまう気持ちもよくわかる。ところが、英語が全くわからない人でもニューヨークのブロードウェイでミュージカルを見ようとする。何の歌をうたっているのか理解不能でも楽しめる要素はたくさんあるからだ。歌舞伎を見にくる外国人にも同様のことが言える。もちろん、あらすじを予め理解しておくことは重要である。より深く楽しめることになるからだ。
バレエの白鳥の湖のあらすじを全く理解せずに観劇する人でも楽しめる要素は多い。踊り、衣装、音楽、舞台美術、照明、演出、ダンサーの美しさなど色々ある。
 舞台演劇も試しに見てみると実はバレエなどと同様に楽しめることが多い。ロシア演劇が世界一と言われる理由は、スタニスラフスキーが演劇の教科書ともいえるスタニスラフスキーシステムを作ったからということだけではない。ロシアでは劇場へ行くことが娯楽として定着しているので一般の人の目が非常に肥えているからであり、その肥えた目を持つ観客を満足させるために、俳優や演出家、美術家などのレベルが非常に高いのである。
 ロシアでは演出家や劇作家は最も尊敬される職業の一つで、俳優も人気が高い。あなたの外国人の友人から日本で最も有名な劇作家は誰かと聞かれたら、あなたは誰と答えるだろう? 別役実、つかこうへい、古典でよければ近松門左衛門とでも答えるだろうか? もし答えられなかったとしても気にすることはない。国の文化が違うのである。日本ではニュース番組が、なぜかスポーツとセットになっており、野球の原監督や野村監督の名前は誰でも知っている。一般人の野球を見る目も肥えていて、おのずと野球のレベルも非常に高い。ロシアで人気の高いアイスホッケーの監督名をロシア人に聞いても、ほとんどの人は答えられないが、有名な演出家の名前を聞けば、すらすらと答えるだろう。シラーやモリエールなどの戯曲を語れる人は教養があると思われるので、おのずと尊敬され、女性からもモテる。
 俳優になるためにも高いハードルがある。競争率の非常に高い、しかも大都市にしかない国立の演劇大学に入学しなければならず、入学できたとしても簡単に卒業できない。舞台上で、ひそひそ話をするような場面があっても、ロシアの俳優達の声はよく通り、後ろの客席に座っていてもはっきり聞こえる。楽器のように頭蓋骨に声を響かせる発声を訓練によって身に着けており、活舌もいいからだ。もごもごと何を言っているかよくわからない高倉健や木村拓哉といった主役俳優が、圧倒的な存在感ゆえに主役になれるスターシステムではない。俳優は撮り直しの効く映画やドラマでなく一発勝負の舞台を主戦場としており、つまらない演技をすると、上演中でも観客は立ち上がって帰ってしまうような厳しい環境におかれている。
 劇場の雰囲気も全く違う。幕が開いた時から舞台が始まるのでなく、劇場に入った時から始まっていると考えられている。ディズニーランドを思い浮かべるといい。入場口で券を渡した時から既に気分は高揚しているだろう。最初のアトラクションに乗るまでの間にも様々な演出が用意されている。ロシアでは国立の古典的な建築様式の劇場も多く、中のインテリアも美しい。専用劇場なので、その劇団の歴史、歴代の有名俳優たちの写真、舞台衣装などが博物館のように展示されている。お洒落をして出かける人がほとんどなので、雰囲気も華やかだ。
 小劇場もたくさんある。鬼才の演出家と俳優が、目の肥えた観客を満足させようと、斬新なアイデアを持って待ち構えている。象徴、皮肉、暗喩を好むので、見るほうは難易度が高くなる。
皆さんに分かりやすい例でいうと、風の谷のナウシカや進撃の巨人といった、深く考えられた作品が好まれ、寅さんや水戸黄門などのシンプルなものは受けない。かつてサンクトペテルブルク日本領事館が日本映画特集として寅さんをロシア語で上映したが、無職のいい歳した男が、たまに実家に帰ってきて我儘し放題。という話の何が面白いのか?と散々な評価であったことを記憶している。とはいえ単純なストーリーでも宝塚や歌舞伎のような美しいものへの評価は高い。
 バレエや歌舞伎のように、舞台演劇も楽しめる要素は同じである。先述した劇場の雰囲気、幕が開いてからの衣装、音楽、舞台美術、照明、演出だけではない。俳優の演技、伝わってくるエネルギーがあるのだ。セリフのない役者でさえも常に何かをしているし、表情は豊かで自然だ。
 日本人になじみがある、シェークスピアやチェーホフなども頻繁に上演されている。ドストエフスキーなどの文学を脚本にした作品もある。ロシアの古典からアメリカやフランスの有名な戯曲まで、演目は様々であるが、まずは、あらすじのわかる作品が上演されていれば満足度は上がるので観劇してみたい。ロミオとジュリエットを本で読み、自分の頭の中で空想していた世界が舞台上で見れるのだ。イメージと違うこともあるが演出家の解釈に関心させられることもある。
 チケット代も日本に比べると安い。日本だと劇団四季で8000円以上、下北沢の劇場へ行っても5000円はするだろう。演目や席にもよるが、日本の半額に近い料金で一流の演劇にふれられる。今は演目も事前にネットでチェックできるし、旅行会社に頼めば、事前にチケットを購入してもらうことも可能だ。演目さえわかれば、事前にあらすじを知ることもできる。一度は実物を見るべきだ。

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